民法総則 第7回 法律行為② 〜意思表示〜

民法総則第7回「法律行為」 民法
民法総則第7回「法律行為」

意思表示とは

意思表示とは、法律効果を発生させるために意思を表示する行為のことです。

法律効果とは、法律上の要件を満たすことで、権利・義務が発生、変更、消滅する効果のことです。

法律行為は、法律効果を発生させるための行為です。
つまり意思表示 = 法律行為の一部であると言えます。

意思表示の具体例として、申込みと承諾、取消しと解除、追認、遺言などがあります。
これらは法律行為でいうところの契約、単独行為、合同行為にあたります。

意思表示は法律行為を構成する要素で、法律効果を発生させるために意思を表示する行為であるということを理解した上で、意思表示の内容について学習していきましょう!

※この記事は、2020年4月改正後の民法に対応しています。

意思表示に至るまでの流れ

意思表示の流れ

意思表示に至るまでの流れ

例えば、
①「軽くて燃費が良く、移動に便利なバイクが欲しい」と考えることが動機です。
②「予算50万円以内で125CCのモンキーという新車のバイクを買おう」と決めることが内心的効果意思です。
③「②のバイクを買うとバイク屋さんに伝えよう」と思うのが表示意思です。
④「新車バイク「モンキー」を買います」と実際にバイク屋さんに伝えることが表示行為です。

表示行為=意思表示となります。

意思主義と表示主義

民法は意思表示に関して、意思主義と表示主義という2つの異なる考え方を採用しています。

意思主義とは、内心的効果意思を尊重する考え方で、内心的効果意思がない場合、その意思表示は無効とするものをいいます。

表示主義とは、意思表示の相手方を保護する考え方、内心的効果意思がなくても、意思表示を有効とするものをいいます。
つまり内心的効果意思よりも、実際に表示された意思を尊重するということです。

このように「意思主義」、「表示主義」とは、条文の規定が内心的効果意思を尊重するためなのか、相手方保護のためなのかを理解する上で必要となります。

瑕疵ある意思表示

ここからが民法の条文の内容になります。

瑕疵ある意思表示とは、その名の通り意思表示に問題があることをいいます。
瑕疵ある意思表示として、①心裡留保、②虚偽表示、③錯誤、④詐欺、⑤強迫が規定されています。

善意の第三者とは

瑕疵ある意思表示の中で、「善意の第三者」という用語が頻繁に使われます。
法律用語としての善意とは、ある事情について知らないことをいいます。

ここでの第三者とは、当事者と一般承継人以外で、利害関係を有するに至った者をいいます。
一般承継人とは、他人の権利・義務をすべて受け継ぐ者のことであり、相続などが一般承継にあたります。

心裡留保

心裡留保とは、嘘や冗談で意思表示することをいいます。

心裡留保による意思表示は、原則として有効です。
つまり嘘や冗談でも、その内容通りの効力が発生するということです。
例えば、冗談で定価50万円のバイクを「1万円で売ります。」と言った場合でも、相手方が「買います。」と言えば売買契約が有効に成立します。

例外として、意思表示の相手方が嘘や冗談で言っていることを知っていたり、知ることができた場合はその意思表示は無効です。
「知っていた」、「知ることができた」とは、言い換えると「悪意」、「有過失」となります。

意思表示した人が無効を主張する場合、相手方が悪意または有過失であることの証明は、意思表示をした人がしなければなりません。
証明できない場合、意思表示は有効となります。

また、無効となる場合でも善意の第三者には対抗することができません。

(例)売買契約の場合
売主&買主=当事者 → 売買契約①
売買契約①の買主から買った者=第三者 → 売買契約②
この例での第三者とは、売買契約①において第三者ということです。
売買契約②では当事者となります。

心裡留保 善意の第三者

心裡留保 善意の第三者

以上のように、心裡留保では原則として有効=表示主義(相手方保護)を採用し、例外として無効=意思主義(内心的効果意思を尊重)を採用しています。

虚偽表示

虚偽表示とは、相手方と示し合わせて虚偽の意思表示をすることをいいます。

虚偽表示による意思表示は、原則として無効です。
表意者と相手方は意思表示が虚偽であることを知っているので、双方とも保護する必要がないからです。
また、虚偽表示による無効は善意の第三者に対抗することができません。

虚偽表示の具体例として、債権者Aさんからの差し押さえを防ぐ目的で、債務者Bさんが友人であるCさんに頼んで、自身の所有する不動産をCさんに売却したように装う場合があります。

虚偽表示

虚偽表示

この場合において、友人Cさんが虚偽表示の事情を知らないDさんにさらに売却してしまったら、債務者Bさんや友人Cさんは虚偽表示による無効を、善意の第三者であるDさんに対抗することができません。
しかし、善意の第三者Dさんが虚偽表示による無効を主張することはできます。

虚偽表示における善意の第三者

虚偽表示における善意の第三者

以上のように、虚偽表示では原則として無効=意思主義(内心的効果意思を尊重)を採用し、他方で無効を善意の第三者に対抗できない=表示主義(第三者保護)を採用しています。

錯誤

錯誤とは、意思表示した人がその「意思」と「表示」が一致していないことを知らない場合をいいます。

錯誤による意思表示は、
①意思表示に対応する意思を欠く錯誤
②表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
①または②のいずれか + その事情が法律行為の基礎としていることが表示されていた場合、原則として取り消すことができます

例外として、表意者に重大な過失があった場合は取り消すことができませんが、
A 相手方が表意者の錯誤に関して、悪意または重過失により知らなかった場合
B 相手方も表意者と同一の錯誤に陥っていた場合
A または B に該当する場取り消すことができます。

錯誤による取消しができる場合であっても、善意無過失の第三者に対抗することはできません。

錯誤の具体例として、バイクの金額が本来100万円なのに契約書に10万円と間違った金額を記載して売却した場合や、125CCのバイクだと思っていたが、実は250CCのバイクだった場合などがあります。

表示の錯誤

表示の錯誤

基礎事情の錯誤

基礎事情の錯誤

以上のように、錯誤では原則として取消しできる=意思主義(内心的効果意思を尊重)を採用し、例外として表意者に重過失がある場合は取消しできない=表示主義(相手方保護)を採用しています。

詐欺

詐欺とは、人を騙して勘違いさせることをいいます。
もう少し細かく言うと、騙された結果として錯誤による意思表示をした場合のことです。

詐欺による意思表示は、原則として取り消すことができます。

第三者が詐欺をした場合は、意思表示の相手方がその事実を知っていたか、知ることができた場合に限り、取り消すことができます。

詐欺による取消しの効果は、善意無過失の第三者に対抗することができません。

詐欺の具体例として、中古のバイクを新車と偽って売却することや、情報商材を買ってその内容通りにすれば簡単に儲けることができると偽って、価値のない情報を高額で売ることなどがあります。

第三者詐欺

第三者詐欺

以上のように、詐欺では原則として取消しできる=意思主義(内心的効果意思を尊重)を採用し、他方で取消しを善意の第三者に対抗できない=表示主義(第三者保護)を採用しています。

強迫

強迫とは、相手を脅して意思表示させることをいいます。

強迫による意思表示は、取り消すことができます。

強迫による取消しは、取消し前に現れた善意の第三者に対しても主張できます。

取消し後に現れた第三者とは対抗関係になります。

強迫の具体例として、「この壺を100万円で買わないとひどい目にあわせるぞ」と言われ、怖くなって売買契約書にサインしてしまった場合や、使用していないにも関わらず「明日までにクレジットカード使用料金5万円の振り込みがない場合、訴えます」と言われ、怖くなって振り込んでしまった場合などがあります。

以上のように、強迫では取消しできる=意思主義(内心的効果意思を尊重)を採用しています。
強迫の場合は本人に落ち度がないため、取消し前の善意の第三者に対しても取消しを主張することができます。

意思表示の効力の発生時期

意思表示は、通知が相手方に到達した時から効力を生じます。

相手方が通知の到達を妨げた場合、本来通知が届いていた時に到達したとみなします。

表意者が意思表示の通知をした後に死亡したり、制限行為能力者になっても、効力は妨げられません。

相手方が誰であるかわからない場合や、どこにいるかわからない場合は、公示(広く一般に知らせること)によって意思表示を行うことができます。

公示は、裁判所の掲示場に掲示し、その掲示があったことを官報(政府が一般に知らせるために発行する国の機関紙)に少なくとも1回掲載して行います。
ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができます。

公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなします。
ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じません。

意思表示の受領能力

意思能力を有しない者と、未成年者、成年被後見人は受領能力がないとされます。

受領能力がない者への意思表示は、相手方へ対抗することができません。
ただし、
①相手方の法定代理人
②相手方が意思能力を回復または行為能力者となった場合
①、②の者が意思表示を知ったときは通常通り、相手方に対抗することができます。

まとめ

意思表示とは、法律効果を発生させるために意思を表示する行為のことであり、主に瑕疵ある意思表示の場合の取り扱いについて解説してきました。

瑕疵ある意思表示の取り扱いを下記の表にまとめています。

瑕疵ある意思表示
種類効果
当事者間第三者に対して
原則例外
心裡留保有効相手方の悪意または有過失=無効善意の第三者に無効を対抗できない
虚偽表示当事者間で無効善意の第三者に無効を対抗できない
錯誤取消しできる

①表意者に重大な過失あり=取消しできない

①の例外:相手方が悪意または重過失、相手方も表意者と同じ錯誤=取消しできる

善意無過失の第三者に取消しの効果を対抗できない
詐欺取消しできる第三者詐欺の場合=相手方が詐欺の事実について悪意、有過失の場合のみ取消しできる。善意無過失の第三者に取消しの効果を対抗できない
強迫取消しできる

取消し前に現れた第三者にも取消しの効果を主張できる

第7回、民法総則「法律行為②」〜意思表示〜については以上となります。

第8回では、民法総則「法律行為③」〜代理〜について解説します。

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