民法総則 第12回 時効 〜総則〜

民法総則 第12回 時効総則 民法

時効とは

時効とは、ある事実が一定の期間経過した場合に、その事実に合わせて権利や義務を取得したり消滅したりする制度のことをいいます。

時効の種類には、取得時効消滅時効があります。

時効

※この記事は、2020年4月改正後の民法に対応しています。

時効の存在理由

①長期間継続した事実状態の尊重(実体法説)
②権利の上に眠る者は保護を受けるに値しない(実体法説)
③立証困難性の救済(訴訟法説)

以上の①〜③が時効制度が存在する理由です。

実体法説とは、時効制度は実体法(民法、商法など)上の権利・義務の得喪原因であるとする説のことをいいます。

訴訟法説とは、時効制度は訴訟法(民事訴訟法、刑事訴訟法など)上の法定証拠であるとする説のことをいいます。

時効の効力

民法第144条では、時効の効力は、その起算日にさかのぼる。」とあります。

例えば、10年前に借金をしていて、その時効が完成した場合は、10年前に借金をした日までさかのぼって効力が生じるということです。

時効の効力

時効の援用

時効が完成するための要件は、ある事実が一定の期間経過することです。

当事者が時効の援用をしなければ、裁判で効力について争うことができません。

「当事者」とは、時効によって直接利益を受ける者をいいます。
この「当事者」=「援用権者」といいます。
判例上、援用権者として認められたのは、①保証人、②連帯保証人、③物上保証人、④抵当不動産の第三取得者、⑤詐害行為の受益者などです。

援用は、裁判上・裁判外問わずいつでも行うことができると考えられています。

援用権者が複数いる場合に、そのうちの1人が援用してもその効果は他の援用権者には及びません。
これを援用の相対効といいます。

時効の援用
援用権者保証人、連帯保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者、詐害行為の受益者
方法時効の利益を受ける意思表示をする
裁判上でも裁判外でも行うことができる
効果相対効
裁判で効力を争うことができるようになる

時効の利益の放棄

時効の放棄をすると、援用する権利を失い、以後時効の利益を受けることはできなくなります。

時効の利益は、時効の完成後に放棄することができますが、時効の完成前に放棄することはできません。

また、時効にかからない約束や時効期間を延長する約束をしてもそれらの約束は無効です。
反対に時効期間を短縮する約束は有効です。

時効の放棄の効果は、援用と同じく相対効です。
援用権者が複数いる場合に、そのうちの1人が放棄してもその効果は他の援用権者には及びません。

時効の放棄
時効完成前放棄できない
時効完成後放棄できる
時効をなくす約束できない
時効期間を延長できない
時効期間の短縮できる
効果援用権を失う

時効の更新 (改正前の民法では時効の中断と呼ばれていたもの)

時効の更新(中断)とは、進行した時効期間を完全にリセットする制度のことをいいます。

時効の更新事由には、①裁判上の請求等&確定判決=(裁判を起こして判決をもらうこと)、②強制執行等③承認があります。

①裁判上の請求等&確定判決
裁判上の請求等には、裁判上の請求、支払督促、和解、民事調停、家事調停、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加があります。
時効によって権利を失う者などからの裁判上の請求等があり、請求認容の確定判決や請求認容の確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書、認諾調書、調停調書、破産債権者表・再生債権者表・更生債権者表の記載など)によって権利が確定するとその時点から時効期間がリセットされます。
却下判決や、訴えの取下げの場合は時効期間はリセットされません。

②強制執行等
強制執行等には、強制執行、担保権の実行、担保権実行としての競売、財産開示手続、第三者からの情報取得手続があります。
強制執行等の手続きが完了すると、完了時から時効期間がリセットされます。

③承認
承認とは、時効によって権利を失う者が、時効によって利益を得る者に対して、権利の存在を認めさせることをいいます。
承認には、支払猶予の請求、利息の支払い、一部弁済などがあります。
承認をするとその時点から時効期間がリセットされます。

時効の完成猶予 (改正前の民法では時効の停止と呼ばれていたもの)

時効の完成猶予(停止)とは、時効期間の進行を一時停止する制度のことをいいます。

時効の完成猶予事由には、①裁判上の請求等、②強制執行等③仮差押え等、④催告、⑤協議を行う旨の合意、⑥その他(未成年者と成年被後見人、夫婦間の権利、相続財産、天災等)があります。

①裁判上の請求等
裁判上の請求等には、裁判上の請求、支払督促、和解、民事調停、家事調停、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加があります。
裁判上の請求等があり、権利が確定することなく終了した場合、終了時から6ヶ月は時効期間の進行が一時停止します。

②強制執行等
強制執行等には、強制執行、担保権の実行、担保権実行としての競売、財産開示手続、第三者からの情報取得手続があります。
強制執行等の手続きが、申立の取下げや法律の規定に従わないことによる取消しによって終了すると、終了時から6ヶ月間は時効期間の進行が一時停止します。

③仮差押え等
仮差押え等には、仮差押え、仮処分があります。
仮差押え等があった場合、それらが終了してから6ヶ月間は時効期間の進行が一時停止します。

④催告
催告とは、相手方に一定の行為をするように請求することです。
催告があった場合、催告時から6ヶ月間は時効期間の進行が一時停止します。

⑤協議を行う旨の合意
協議を行う旨の合意があった場合、
・合意時から1年間
・協議期間を決めたときは期間経過時(1年未満に限る)
・当事者の一方が協議を続けることを拒絶したことを書面で通知した時から6ヶ月間
のいずれか早い時までの間は、時効期間の進行が一時停止します。

⑥その他
下記の場合、6ヶ月経過するまでの間、時効期間の進行が一時停止します。

・未成年者、成年被後見人に法定代理人がいない場合で、行為能力者となった時または法定代理人が就職した時

・未成年者・成年被後見人の財産を管理する者に対して権利を有するときは、行為能力者となった時または後任の法定代理人が就職した時

・夫婦の一方が他の一方に対して権利を有する場合で離婚した時

・相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時、破産手続開始の決定があった時

※天災やその他避けることのできない事変のために時効の更新や完成猶予の手続きができないときは、その障害が消滅したときから3ヶ月経過するまでの間、時効期間の進行が一時停止します。

時効の更新、完成猶予の効力が及ぶ者の範囲

時効の更新、完成猶予の効力は、当事者及びその承継人の間においてのみ生じます。

当事者とは、時効の更新や完成猶予の手続きをした者と相手方をいいます。
承継人とは、時効の対象となる権利を譲り受けた者や相続によって権利を引き継いだ者をいいます。

まとめ

時効総則は、時効の効力・援用・放棄・更新・完成猶予に関する規定でした。

時効の更新・完成猶予
事由更新完成猶予
裁判上の請求等認容判決等権利が確定せず終了した場合、終了時から6ヶ月間
強制執行等手続き完了時申立ての取下げや法律の規定に従わないことによって終了した場合、終了時から6ヶ月間
承認承認した時点
仮差押え等仮差押え等終了時から6ヶ月間
催告催告時から6ヶ月間
協議を行う旨の合意

①合意時から1年経過

②当事者が協議期間を定めた場合その定めた期間(ただし1年以内)

③当事者の一方が相手方に協議の続行を拒絶する旨の通知を書面でした場合、通知時から6ヶ月間

その他

①未成年者、成年被後見人に法定代理人がいない

②未成年者、成年被後見人が行為能力者になった時または法定代理人が就職した時

③未成年者、成年被後見人がその財産を管理する父、母または後見人に対して権利を有する場合で、未成年者、成年被後見人が行為能力者になった時または後任の法定代理人が就職した時

④夫婦の一方が他の一方に対して権利を有する場合で、離婚した時

⑤相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時、破産手続開始の決定があった時

①〜⑤の時から6ヶ月間

※天災その他避けることのできない事変のために時効更新や完成猶予のための手続きができないときは、その障害が消滅した時から3ヶ月経過するまで

第12回、民法総則「時効総則」については以上となります。

第13回では、民法総則「取得時効」について解説します。

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