人について
この記事では、民法総則に規定されている「人」について解説します。
「人」ではまず権利能力、意思能力、行為能力について理解することが重要です。
どのような人がこれらの能力を有するのか、能力がない場合の扱いはどうなるのかを意識して学習してみてください!
※この記事は、2020年4月改正後の民法に対応しています。
権利能力、意思能力、行為能力とは
権利能力
権利能力とは、自身が権利を得たり、義務を負ったりすることができる能力のことです。
「権利を得たり、義務を負ったりすること」の具体例として、お店で物を買って、物を受け取る権利を得たり、お金を支払う義務を負うことなどがあります。
これを言い換えると、「売買契約を締結し、債権や債務を負うこと」となります。
権利能力を有する者として、「人」と「法人」があります。
外国人にも権利能力はありますが、法律や条約の規定により制限される場合があります。
権利能力は生まれた時に取得し、死亡時に消滅します。
胎児に関しては、原則として権利能力を有しません。
例外として「相続」、「遺贈(遺言によって他人に財産を与えることをいい、法定相続人やそれ以外の者に対してもすることができる)」、「不法行為による損害賠償請求」に関しては、無事に生きて生まれた場合遡及的(さかのぼって)に権利能力を有していたと認められます。
胎児が死産した場合は、初めから権利能力を有していなかったことになり、相続や遺贈、不法行為による損害賠償請求をすることもできません。
意思能力
意思能力とは、取引などの際に自身の行為の結果を認識できる能力のことです。
意思能力を有するかどうかは、取引や行為の内容から個別に判断されます。
例えば、7歳程度の子供のケースで考えてみると、コンビニでおにぎりを買う場合は意思能力があり有効とされても、不動産を相続する場合は意思能力がなく無効とされることが考えられます。
意思能力がないと判断された場合の取引や行為は無効です。
また、幼児や泥酔者などは意思能力がないとされます。
行為能力
行為能力とは、単独で法律行為を行うことができる能力のことです。
法律行為とは、意思表示によって権利や義務の発生・変更・消滅を発生させる行為をいいます。
法律行為の代表的な例として、契約や遺言などがあります。
基本的に権利能力を有する者は、行為能力も有していますが、民法では一定の条件に該当する場合に、行為能力に制限をかけています。
この行為能力に制限をかけられた人のことを「制限行為能力者」といいます。
制限行為能力者
制限行為能力者には、①未成年者、②成年被後見人、③被保佐人、④被補助人の4つがあります。
せ制限行為能力者の種類 | |
種類 | 定義 |
未成年者 | 20歳未満の者 (民法改正により2022年4月1日からは18歳未満が未成年者となる。) |
成年被後見人 | 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者 + 後見開始の審判を受けた者 |
被保佐人 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者 + 保佐開始の審判を受けた者 |
被補助人 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者 + 補助開始の審判を受けた者 |
制限行為能力者の行った法律行為の効果
制限行為能力者が単独で行った法律行為は取り消すことができるケースと、できないケースに分けられます。
制限行為能力者の種類毎に内容が異なりますので、下記表を参考にしてみてください。
制限行為能力者の行った法律行為の効果 | ||
種類 | 原則・例外 | 効果 |
未成年者 | 原則 | 法定代理人(通常は親権者で、親権者がいないときは未成年後見人)の同意なしで行った未成年者の法律行為は取り消すことができる。 |
例外 | ①単に権利を得、又は義務を免れる法律行為 ②法定代理人が目的を定めて処分を許した財産の目的の範囲内での処分 + 目的を定めないで処分を許した財産を処分する行為 ③営業を許可された場合の営業に関する行為 ①〜③に該当する場合は、取り消すことができない。=未成年者が単独で行うことができる | |
成年被後見人 | 原則 | 成年被後見人の行った法律行為は取り消すことができる。 |
例外 | 日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができない。 その他日常生活に関する行為とは、家賃・光熱費の支払いや、電車・バスの運賃の支払いなどをいう。 | |
被保佐人 | 原則 | 基本的には単独で法律行為を行うことができるため、取り消すことはできない。 |
例外 | 民法13条に規定されている不動産の売買や保証人になることなどの重要な財産上の行為は保佐人の同意なしで行うことができず、取消すことができる。 | |
被補助人 | 原則 | 基本的には単独で法律行為を行うことができるため、取り消すことはできない。 |
例外 | 特定の法律行為に関して、補助人に同意権または代理権もしくは双方を付与する家庭裁判所の審判を受けなければならず、その特定の法律行為を補助人の同意や代理なく行った場合は取り消すことができる。 特定の法律行為とは、保佐人同様民法13条に規定されている不動産の売買や保証人になることなどの重要な財産上の行為のうちの一部である。 |
制限行為能力者の相手方の保護
制限行為能力者の制度は、制限行為能力者を保護するための規定ですが、法律行為が取り消されると相手方にも不利益が及ぶことが考えられます。
そのため、制限行為能力者の行った法律行為の相手方にも催告権が認められています。
催告権とは、1ヶ月以上の期間を定めて制限行為能力者の法律行為を追認(法律行為を取り消さず、有効であると認めること)するかどうかを確認する権利のことです。
制限行為能力者の相手方の催告権 | ||
状況 | 催告の相手 | 催告に返事をしなかった場合の効果 |
制限行為能力者が行為能力者になった場合 | 本人 | 追認したとみなす。 |
制限行為能力者のままである間 | 法定代理人 | ①法定代理人・保佐人・補助人の権限内の行為=追認したとみなす。 ②特別の方式を要する行為=取り消したとみなす。 |
被保佐人 被補助人 | 取り消したとみなす。 |
制限行為能力者の詐術
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことはできません。
「詐術」にあたるケースとしては、17歳の未成年者が21歳であると偽って借金をしたり、被保佐人が保佐人の同意を得ていると偽って不動産を売却することなどがあります。
「詐術」にあたらないケースとしては、自分が制限行為能力者であるということを言わずに借金をした場合などがあります。
まとめ
すべての人は権利能力を有していて、その上で、意思能力と行為能力があれば法律行為は有効であるということです。
そして意思能力がない人の法律行為は無効です。
行為能力を制限されている制限行為能力者という制度があり、その種類や状況に応じて取り消しできる場合があります。
第2回、民法総則「人」の権利能力・意思能力・行為能力については以上となります。