代理とは
代理とは、他人が本人に代わって法律行為をし、その効果が本人に帰属する制度のことです。
代理には、私的自治の拡張を目的とした「任意代理」と、私的自治の補充を目的とした「法定代理」があります。
任意代理の具体例として、弁護士や司法書士への依頼、パソコンに詳しい友人に代わりにパソコンを購入してもらうことなどがあります。
法定代理の具体例として、親権者、後見人、財産管理人などがあります。
後見人とは異なり、保佐人や補助人は代理権があるとは限らないため、代理人となるには家庭裁判所の審判が必要な点に注意してください。
また、代理権がないのに代理行為をすることを広義の無権代理といい、その内容によって狭義の「無権代理」と「表見代理」があります。
今回はこれらの代理について解説します!
※この記事は、2020年4月改正後の民法に対応しています。
代理の要件及び効果
法定代理の場合、代理権は法律の規定に従って与えられます。
任意代理の場合、代理権は本人が授与します。
任意代理は、委任契約であることが多いですが、請負契約や雇用契約などである場合もあります。
本人のためにすることを示さないでした(顕名を欠く)代理行為は、代理人自身のためにしたものとみなされます。
例外として、相手方が代理であることに関して、悪意・有過失の場合は有効な代理行為となります。
代理権が存在しない場合や、代理権の範囲を超えた代理行為は、無権代理や表見代理の問題となります。
代理行為の瑕疵
代理行為が、意思表示の瑕疵や善意・悪意によって影響を受ける場合、その事実の有無は本人ではなく、代理人について判断します。
また、本人が悪意または有過失である場合、代理人が善意であっても本人は代理人の善意を主張できません。
代理人の行為能力
代理人は、行為能力を有している必要はありません。
つまり制限行為能力者でも代理人となることができます。
制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限を理由とした取消しをすることができません。
例外として、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人である場合は、行為能力の制限を理由とした取消しをすることができます。
代理人の権限
法定代理の場合、代理人の権限は法律で規定されています。
任意代理の場合、代理人の権限は契約によって決まります。
権限の定めがない場合、代理人は管理行為(保存行為・利用行為・改良行為)のみを行う権限を有します。
復代理人
復代理人とは、代理人がさらに選任した代理人のことです。
復代理人は、代理人の代理人ではなく、本人の代理人です。
復代理人は、与えられた権限の範囲内で、代理人と同一の権利・義務を負います。
また復代理人を選任しても、元の代理人の代理権は消滅するというわけではありません。
復代理人の選任 | ||
原則 | 例外 | |
任意代理 | 選任することができない | ①本人の許諾を得たとき ②やむを得ない事由があるとき ①、②の場合、選任することができる |
法定代理 | いつでも自己の責任で選任することができる | やむを得ない事由があるときは、本人に対して復代理人の選任及び監督についてのみ責任を負う |
代理権の濫用
代理人が、自身や第三者の利益を図る目的で代理行為をした場合で、相手方がその目的につき悪意または有過失であったときは、その行為は無権代理行為とみなされます。
自己契約及び双方代理
自己契約とは、自身と相手方との契約において、相手方の代理人となることをいいます。
双方代理とは、当事者双方の代理人となることをいいます。
自己契約や双方代理は無権代理とみなします。
ただし、債務の履行と本人が認めた行為については有効です。
代理権の消滅事由
代理権の消滅事由 | |||
死亡 | 破産手続開始決定 | 後見開始の審判 | |
本人 | 消滅する | 任意代理=消滅する 法定代理=消滅しない | 消滅しない |
代理人 | 消滅する | 消滅する | 消滅する |
代理権の消滅事由として、本人・代理人の「死亡」、「破産手続開始決定」、「後見開始の審判」があります。
上記以外に、任意代理の場合、契約の終了によっても代理権が消滅します。
法定代理の場合、本人が制限行為能力者でなくなったときは代理権が消滅します。
無権代理
無権代理とは、代理権がないにもかかわらず代理行為をすることをいいます。
本人のとりうる手段
無権代理の代理行為の効果は本人に帰属しませんが、本人は①代理行為の追認、②代理行為の追認拒絶をすることができます。
追認すると、代理行為の時点にさかのぼって有効となります。
相手方のとりうる手段
相手方は①本人に対する催告、②取消し、③無権代理人の責任追及をすることができます。
本人に相当の期間を定めて催告しても返事がない場合は、追認拒絶とみなすことができます。
取消しは、相手方が代理権がないことにつき善意かつ、本人が追認するまでの間はすることができます。
無権代理人の責任追及は、①代理権がないことについて善意・無過失、②代理人が制限行為能力者でない、③本人がまだ追認していないときに行うことができ、履行か損害賠償を請求することになります。
無権代理と相続に関する判例
無権代理人と本人との間で相続が発生すると、どちらの立場の権利や義務を負うのかという問題が発生します。
(1)無権代理人が本人を相続
①本人が自ら法律行為をしたのと同様の効果が生じ、無権代理行為の追認拒絶できない。
②本人の追認拒絶後に相続した場合、無権代理行為は有効とはならない。
③共同相続した場合、共同相続人全員の追認がなければ、当然に有効とはならず、他の共同相続人全員が追認した場合、無権代理人は無権代理行為の追認拒絶できない。
(2)本人が無権代理人を相続
無権代理行為の追認拒絶できるが、同時に無権代理人としての責任も負うことになる。
(3)無権代理人と本人の双方を相続
①無権代理人を相続→本人を相続→本人が自ら法律行為をしたのと同様の効果が生じ、無権代理行為の追認拒絶できない。
②無権代理人を本人と共同相続→本人を相続→本人が自ら法律行為をしたのと同様の効果が生じ、無権代理行為の追認拒絶できない。
表見代理
表見代理とは、代理権がないのに代理人であるような外観の者が代理行為を行った場合に、代理の効果が本人に帰属する制度をいいます。
表見代理には(1)代理権授与の表示、(2)権限外の行為、(3)代理権消滅後の3つの類型があります。
各表見代理の要件
(1)代理権授与の表示による表見代理
① 本人が代理人以外の第三者に対して、代理人に代理権を与えた旨の表示をしたこと
② 代理人が①で表示を受けた第三者と代理権の範囲内で代理行為をしたこと
③ 代理権がないことに関する相手方の善意・無過失
(2)権限外の行為による表見代理
① 代理人に代理権があること
② 代理人が代理権の権限外の代理行為をしたこと
③ 第三者が代理権があると信じる正当な理由があること
(3)代理権消滅後の表見代理
① 代理行為時に、元々有していた代理権が消滅していたこと
② 元の代理権の権限内で代理行為をしたこと
③ 代理権の消滅に関する相手方の善意・無過失
表見代理の効果
表見代理が成立すると、無権代理人の代理行為の効果が本人に帰属します。
ただし、相手方は表見代理を主張せずに、無権代理人に責任追及したり、本人が追認するまでの間は取消権を行使したりすることができます。
まとめ
「代理」には任意代理と法定代理があり、代理行為が有効に成立すれば本人に効果が帰属する、ということでしたね。
「代理」では、その種類やそれぞれの要件・効果・判例について理解しておくことが重要です!
第8回、民法総則「法律行為③」〜代理〜については以上となります。