民法 物権の全体像
物権とは、物に対する権利のことをいいます。
もう少し詳しく言うと、物権とは、物を直接的・排他的に支配(使用、収益、処分)する権利です。
直接的とは、「他人の行為を必要とせず」、自身の意思のみで物を支配できることをいいます。
反対に「他人の行為を必要とする」とは、債権における債務者や債権者の行為をイメージしてもらえたらよいかと思います。
例えば、リンゴを買ったら債務者は代金を支払う義務を負い、債権者は代金を受領する権利を得ます。
そして代金を受領した債権者はリンゴを引き渡す義務を負い、代金を支払った債務者はリンゴを受領する権利を得ます。
これが債権です。
物権(所有権)の場合、リンゴの所有権を持っている者はリンゴを食べたり、売ったり、捨てたりすることができますが、それらの行為をするのに他人の許可は必要ありません。
これが「直接的」ということです。
※ただし、用益物権や担保物権は制限物権であり、支配に一定の制限があります。
排他的とは、1つの物には1つの権利しか存在しないことをいいます。(一物一権主義)
例えば、1台のパソコンに対して所有権が複数成立することはありません。(所有権=パソコン1台=所有権1個)
「共有」という方法で、1台のパソコンを複数人で所有することは可能ですが、所有権という物権は1つです。(共有=パソコン1台=所有者複数(所有権は1個))
所有権という大きな枠の中で共有という使い方があるというイメージです。
民法の物権編は全10章あり、
第1章 総則
第2章 占有権
第3章 所有権
第4章 地上権
第5章 永小作権
第6章 地役権
第7章 留置権
第8章 先取特権
第9章 質権
第10章 抵当権
となっています。
まずはこの上の図の物権編の構造を理解しましょう!
※総則は物権編全体に共通するルールです。
※この記事は、2020年4月改正後の民法に対応しています。
物権法定主義
物権は法律で定められたもの以外は、当事者による合意で作ることができません。(これを物権法定主義といいます。)
まず民法に定められている物権に関する用語について説明します。
占有権=「物を所持しているという状態」を保護するための権利
本権=「物を占有する正当な理由」となる権利
所有権=「物を自由に使用・収益・処分」することができる権利
制限物権=「物を一部の限られた目的のために利用」することができる権利で、用益物権と担保物権がある
用益物権=「他人の土地を使用し、収益を得る」ことができる権利
地上権=「他人の土地上で、工作物や竹木を所有するためにその土地を使用する」権利
永小作権=「他人の土地上で、小作料を支払い耕作や牧畜をする」権利
地役権=「他人の土地を、設定行為で定めた目的に従って、自分の土地の利益のために使用する」権利
入会権=「地域の住民が山林原野などを共同で利用する」慣習上の権利
担保物権=「債権者が、債務者の物的財産から優先的に債権を回収する」権利
留置権=「他人の物を占有している者が、その物に関する債権を持っている場合、弁済を受けるまで引き渡さずに持っておく」ことができる権利
先取特権=「法律で定められた一定の債権(給料や葬式の費用などの債権)を持っている者が、債務者の財産から優先的に弁済を受ける」ことができる権利
質権=「債権者が、質権設定者(債務者や第三者)から受け取った物を占有し、弁済がない場合にその物を競売するなどしてその代金から優先的に弁済を受ける」ことができる権利
抵当権=「債権者が、抵当権設定者(債務者や第三者)が占有を移転しないで債務の担保とした不動産について、弁済がない場合にその不動産を競売するなどしてその代金から優先的に弁済を受ける」ことができる権利
物権の客体(物権の対象)
物権の客体は物です。
物とは、有体物(液体・気体・固体)をいいます。
「物」に関しては、民法総則第5回「物」で解説していますので、詳しく知りたい方はそちらをご覧ください。
さらに「物」は不動産と動産の2種類に分けられます。
不動産とは、土地及びその定着物をいいます。
動産とは、不動産以外の物をいいます。
物権の効力
物権の効力として、①優先的効力と②物権的請求権があります。
①優先的効力
・物権同士の優先順位=先に成立した物権>後に成立した物権
・物権と債権=物権>債権
②物権的請求権
・物権的返還請求権=物が無権利者に占有されている場合に、物の返還を請求することができる権利
・物権的妨害排除請求権=物権が占有以外の方法で侵害されている場合に、侵害者に対して妨害の除去を請求することができる権利
・物権的妨害予防請求権=物権が妨害されるおそれがある場合に、妨害の危険を生じさせている者に対して、予防措置をとることを請求することができる権利
まとめ
今回は①物権の種類、②物権の対象、③物権の効力について解説しました。
①物権の種類として、占有権と本権(所有権、制限物権)があり、
②物権の対象として、物=不動産と動産があり、
③物権の効力として、優先的効力と物権的請求権があります。
第15回、民法物権「物権の全体像」については以上となります。