民法物権 総則
民法の物権編は全10章あります。
総則は第1章に規定されており、全5条です。
総則の内容は、
①物権の創設
②物権の設定及び移転
③不動産に関する物権の変動の対抗要件
④動産に関する物権の譲渡の対抗要件
⑤混同
となっています。
※総則の規定は物権編全体に共通するルールとなります。
※この記事は、2020年4月改正後の民法に対応しています。
物権の創設(物権法定主義)
民法第175条(物権の創設)では、
「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。」
と規定されています。
この条文の規定を物権法定主義ともいいます。
物権は民法の他には、商法(商事留置権や商事質権など)や鉱業法(鉱業権)、採石法(採石権)などがあります。
また、慣習法上での物権として温泉専用権や流水利用権などがあります。
さらに、譲渡担保権については民法に定めはありませんが、判例で認められています。
譲渡担保権に関しては、前提として質権や抵当権などの知識がないと理解しにくいため、現時点では物権の一種という程度の理解で良いかと思います。
※譲渡担保権に関しては物権編の最終回の記事で解説します。
以上のように物権法定主義とは、法律・慣習法・判例などで認められたもの以外は、たとえ当事者間で合意があっても作ることはできないという規定です。
物権の設定及び移転
民法第176条(物権の設定及び移転)では、
「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」
と規定されています。
この条文の規定は物権の設定や移転が意思主義に基づくものであることを規定したものです。
意思主義に基づくとは、当事者の意思表示があれば物権の設定・移転の効果が発生し、特別な形式の手続きを必要としないという事です。
意思表示について詳しく知りたい方はコチラの記事をご覧ください。
しかし、物権変動には時効や即時取得による場合など法律行為を伴わない場合もあるという点に注意しましょう。
つまり民法第176条の規定は、「物権変動は、原則として意思表示によるものとし、例外的に時効や即時取得などによって変動することがある」と理解してもらえたらよいかと思います。
不動産に関する物権の変動の対抗要件
民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)では、
「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」
と規定されています。
対抗要件とは、自身の持つ権利を第三者に主張するために必要な条件をいいます。
当事者間では基本的には対抗要件は不要です。
つまり不動産に関する物権を第三者に主張するためには、登記をする必要があるということです。
動産に関する物権の譲渡の対抗要件
民法第178条(動産に関する物権の変動の対抗要件)では、
「動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。」
と規定されています。
つまり動産に関する物権を第三者に主張するためには、引渡しが完了している必要があるということです。
混同
民法第179条(混同)では、
「1項 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。
ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
2項 所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。
この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
と規定されています。
1項の具体例として、
・A建物の所有者X(所有権)
・A建物の抵当権者Y(抵当権)
・YがXからA建物を購入=YはA建物の所有権と抵当権を得る
となった場合、同一物について所有権と他の物権(この例の場合は抵当権)が同一人(Y)に帰属し、当該他の物権(抵当権)が混同により消滅するということです。
2項の具体例として、
・A土地の地上権者X
・A土地の地上権に対する抵当権者Y
・XがYを相続=Xは地上権と抵当権を得る
となった場合、所有権以外の物権(この例の場合は地上権)とこれを目的とする他の権利(この例の場合は抵当権)が同一人(X)に帰属し、当該他の権利(抵当権)は消滅するということです。
そして、1項・2項の規定は占有権については適用しないことを規定したのが3項となります。
まとめ
今回は物権編第1章「総則」について解説しました。
総則は物権編全体に共通のルールであり、その内容として、
①物権法定主義
②物権変動
③対抗要件
④混同
があります。
第16回、民法物権「総則」については以上となります。