民法 物権 第17回 〜占有権① 占有権の取得〜

民法物権 第17回 占有権1 民法

民法物権 占有権

民法の物権編は全10章あります。
占有権は第2章に規定されており、全4節あります。

第2章「占有権」の内容は、
①占有権の取得
②占有権の効力
③占有権の消滅
④準占有
となっています。

今回は①占有権の取得について解説します。

占有権の取得

※この記事は、2020年4月改正後の民法に対応しています。

占有権とは

占有権とは、物を所持している状態を保護する権利のことです。

民法第180条では、
「占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。」
と規定されています。

例えば、
①Aさんが自分で家を購入して住んでいる場合、Aさんにはその家の所有権と占有権があります。
②Cさんが友達のDさんに自転車を貸している場合、その自転車に対してCさんには所有権と占有権があり、Dさんには占有権のみがあります。

反対に、
③Aさんが自分で家を購入して住んでいる場合で、赤の他人であるBさんが勝手にあがりこんで住み着いてしまったとしても、Bさんには占有権がありません。

以上のように、自己のためにする意思をもって物を所持することによって占有権を取得できます。

占有の種類

占有権の全体像

自主占有と他主占有

自主占有とは、所有の意思のある占有です。

他主占有とは、所有の意思のない占有です。

所有の意思の有無は、外形的・客観的に判断します。
つまり本人がどう思っているかではなく、占有に至った経緯などから判断します。

例えば、
①家を買った場合→所有の意思あり=自主占有
②自転車をもらった場合→所有の意思あり=自主占有
③家を借りた場合→所有の意思なし=他主占有
④自転車を預かった場合→所有の意思なし=他主占有
となります。

自己占有と代理占有

自己占有とは、本人が直接物を所持する占有です。

代理占有とは、他人の所持を通じて間接的に行う占有です。
民法第181条では、
「占有権は、代理人によって取得することができる。」
と規定されています。

例えば
①家を買った人がその家に住んでいる場合→自己占有
②Aさんから家を借りているBさんがその家に住んでいる場合→Aさん=代理占有、Bさん=自己占有
③Cさんが自転車をDさんに預けた場合→Cさん=代理占有、Dさん=自己占有
となります。

占有権の移転

占有権の移転

現実の引渡し及び簡易の引渡し

民法第182条では、
1項「占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。」
2項「譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。」
と規定されています。
 
1項の規定を現実の引渡しといい、2項の規定を簡易の引渡しといいます。
 
現実の引渡しとは、占有権を譲渡するために、物を所有者のもとから占有者のもとへ移すことをいいます。
 
簡易の引渡しとは、すでに占有者が物を所持している場合に、所有者と占有者が意思を表示するだけで占有権の譲渡することができる引渡し方法をいいます。
 

占有改定

民法第183条では、
「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。」
と規定されています。

これを占有改定といいます。

占有改定とは、物を譲渡した人が引き続きその物を持ち続けるような場合をいいます。

例えば、
①Aさんが所有する家をBさんに売った(売買契約によりAさんの所有権・占有権がBさんに移転)
②AさんはBさんから売った家を借りて住み続けることにした(賃貸借契約によりBさんの占有権がAさんに移転)
占有改定(①、②)の結果として、Aさんは所有権を失い、占有権のみを取得することになります。

指図による占有移転

民法第184条では、
「代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。」
と規定されています。

これを指図による占有移転といいます。

指図による占有移転とは、物の元所有者から新所有者に所有権が移転した場合に、元の所有者が占有者に対して新所有者のために占有することを指示し、新所有者もこれを承諾した場合に、新所有者が占有権を取得することをいいます。

例えば、
①Aさんが所有する家をBさんに貸している(所有者Aさん、占有者Bさん)
②AさんがCさんに家を売った(元所有者Aさん、新所有者Cさんとなる)
③AさんがBさんに、家は売買契約により、Cさんの物になった事を伝える
④③についてCさんも承諾する
指図による占有改定(①〜④)の結果として、Aさんの占有権はCさんが取得することになります。

占有の性質の変更

民法第185条では、
「権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。」
と規定されています。

この規定は、他主占有から自主占有への切り替えについて規定したものです。

他主占有から自主占有に切り替えるためには
①占有させた者に対して所有の意思を表示
②新たな権原によって所有の意思をもって占有を始める
のどちらかが必要となります。

①は、所有者に対して、占有者が所有権は自分にあると伝えることです。

②の権原とは、ある行為を正当化する法律上の根拠のことです。
占有の性質の変更の要件に該当する場合として、売買契約や贈与契約によって占有者が所有権を取得した場合などがあります。

占有の態様等に関する推定

民法第186条では、
1項「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。」
2項「前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。」
と規定されています。

1項=物を占有している場合、善意の自主占有であると推定されます。

2項=占有期間の計算において、最初と最後の時点で占有していた証明ができれば、間の期間の占有の証明がなくても占有が継続していたと推定されます。

占有の承継

民法第187条では、
1項「占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。」
2項「前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。」
と規定されています。

1項=前の占有者から占有権を引き継いだ場合、
①自分が占有を開始した時から
②前の占有者が占有を開始した時から
のいずれかを選択することができます。

2項=1項の②を選択した場合は、前の占有者の善意・悪意や過失も同時に引き継ぐことになります。

まとめ

今回は物権編 第2章 占有権 第1節 占有権の取得について解説しました。

占有権の取得

占有の取得の内容として、占有権の定義・要件、種類、移転方法、性質の変更、占有の推定、承継があります。

第17回、民法物権「占有権の取得」については以上となります。

第18回では、民法物権「占有権の効力」について解説します。

 
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