民法物権 占有権
民法の物権編は全10章あります。
占有権は第2章に規定されており、全4節あります。
第2章「占有権」の内容は、
①占有権の取得
②占有権の効力
③占有権の消滅
④準占有
となっています。
今回は②占有権の効力について解説します。
※この記事は、2020年4月改正後の民法に対応しています。
権利の推定
民法第188条では、
「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。」
と規定されています。
占有者は、多くの場合、適法な本権を有している可能性が高いことからこの条文が規定されました。
占有物について行使する権利とは、所有権(自己占有)、質権(自己占有)、賃借権(代理占有)などのことです。
民法第188条は、占有の外観を信じて取引をする相手方を保護するための規定であり、占有者を保護するためのものではありません。
果実収取権
果実収取権とは、物から生じる経済的な利益を取得する権利をいいます。
善意の占有者
民法第189条では、
1項「善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。」
2項「善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。」
と規定されています。
ここでいう「善意の占有者」とは、「果実収取権を有する」善意の占有者をいい、「果実収取権のない」占有者は含みません。
「果実収取権を有する」占有者は、所有権者、地上権者、永小作権者、不動産質権者などです。
「果実収取権のない」占有者は、留置権者、動産質権者などです。
また「善意の占有者」に過失の有無は問われません。
悪意の占有者
民法第190条では、
1項「悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。」
2項「前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。」
と規定されています。
ここでいう「悪意の占有者」とは、自身に果実収取権がないことを知っている占有者をいいます。
損害賠償
民法第191条では、
「占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。
ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。」
と規定されています。
ここでいう「回復者」とは、占有物の返還請求権を有する者をいいます。
即時取得
民法第192条では、
「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」
と規定されています。
即時取得 | |
定義 | 無権利者の占有している動産について、その外観を信頼して取引した者は、その動産に関する権利を原始取得することができる制度 |
要件 | ①動産 ②前主が無権利者かつ占有者 ③前主との有効な取引行為 ④取得者が平穏・公然・善意無過失で占有を開始 |
効果 | 所有権、質権、譲渡担保権などの権利を原始取得する |
即時取得の要件
即時取得の要件は、
①動産
②前主が無権利者かつ占有者
③前主との有効な取引行為
④取得者が平穏・公然・善意無過失で占有を開始
の4つです。
即時取得の効果
①〜④の要件を満たし、即時取得が成立すると、取得者は所有権、質権、譲渡担保権などの権利を原始取得します。
原始取得とは、前主の権利や制限は引き継がずに、新たに権利を取得することです。
取得者は、本来の権利者に対して不当利得による返還義務を負いません。
盗品又は遺失物の回復
民法第193条では、
「前条(即時取得)の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。」
と規定されています。
民法第194条では、
「占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。」
と規定されています。
これらは即時取得の例外規定であり、盗品・遺失物に関して、
①2年間は回復請求権があること
②善意取得者には代価を弁償しなければ回復請求権を行使できないこと
を定めています。
動物の占有による権利の取得
民法第195条では、
「家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から1ヶ月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。」
と規定されています。
家畜以外の動物とは、人の支配がない状態で生活する動物をいいます。
例えば、他人が飼っていたネコが逃げ出して、そのことを知らない人が保護して飼い始めた場合、元の飼い主から1ヶ月以内に回復請求を受けなければ、新たな飼い主がネコに対する権利を取得します。
費用償還請求権
民法第196条では、
1項「占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。
ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。」
2項「占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。
ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。」
と規定されています。
これらの規定を費用償還請求権といいます。
費用償還請求権 | ||
原則 | 例外 | |
必要費 | 全額請求できる | 占有者が果実を取得した場合、通常の必要費は占有者が負担する |
有益費 | 価格の増加が現存していれば、 回復者の選択に従い、請求できる | 悪意の占有者に対しては、回復者が裁判所に請求することで、裁判所が償還について相当の期限を与えることができる |
占有訴権
民法第197条では、
「占有者は、次条(占有保持の訴え)から第202条(本権の訴えとの関係)までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。
他人のために占有をする者も、同様とする。」
と規定されています。
占有訴権とは、占有を侵害された者が、侵害した者に対して侵害の排除を請求することができる権利のことです。
占有訴権 | |||
占有保持の訴え | 占有保全の訴え | 占有回収の訴え | |
要件 | 占有者の占有が妨害されたとき | 占有者の占有が妨害されるおそれがあるとき | 占有者の占有が奪われたとき |
請求内容 | ①妨害の停止 及び ②損害賠償 | ①妨害の予防 又は ②損害賠償の担保 | ①目的物返還 及び ②損害賠償 |
主体 | 占有者(他主占有者・代理占有者・悪意の占有者も含む) | ||
提起期間 | 原則: 例外: | 原則: 例外: | 占有を奪われた時から1年以内 |
占有訴権の種類
民法第198条〜第200条では、
第198条(占有保持の訴え)
「占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。」
「占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。」
1項「占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。」
と規定されています。
以上のように占有訴権には、
①占有保持の訴え=妨害の停止
②占有保全の訴え=妨害の予防
③占有回収の訴え=目的物返還
の3種類があります。
占有保持の訴え
占有保持の訴えでは、占有者の占有が妨害されている場合に、①妨害の停止及び②損害賠償の請求をすることができます。
妨害の停止の請求は妨害者に故意や過失がなくてもすることができますが、損害賠償請求については妨害者の故意や過失が必要となります。
訴えの相手方は、現在占有を妨害している者です。
占有保全の訴え
占有保全の訴えでは、占有者の占有が妨害される可能性がある場合に、①妨害の予防又は②損害賠償の担保のどちらかを選択して請求することができます。
妨害の予防にかかる費用については、妨害者の故意や過失がなくても、妨害者が負担します。
また、損害賠償の担保の請求に関しても妨害者の故意・過失は不要です。
占有回収の訴え
占有回収の訴えでは、占有者が占有を奪われた場合に、①目的物返還及び②損害賠償の請求をすることができます。
目的物の返還の請求は、侵奪者の故意や過失がなくてもすることができまが、損害賠償請求については侵奪者の故意や過失が必要となります。
占有訴権の主体
占有訴権は、他主占有者・代理占有者・悪意の占有者であっても請求することができます。
占有の訴えの提起期間
民法第201条では、
1項「占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければならない。
ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。」
2項「占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。
この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。」
3項「占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない。」
と規定されています。
提起期間に関しては、条文の通り覚えていただければよいかと思います。
本権の訴えとの関係
民法第202条では、
1項「占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。」
2項「占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。」
と規定されています。
1項の規定は、占有訴権と本権の訴えは無関係であることを意味しています。
つまり両方の訴えを同時に提起することも、別々に提起することも可能です。
2項の規定は、占有訴権と本権の訴えは別個独立したものであることを意味しています。
例えば、占有回収の訴えの被告は、所有権が自身にあることを理由として請求を否認すること(訴えの防御としての所有権の主張)はできません。
ただし、被告が占有回収の訴えとは別に、本権に基づく物権的返還請求権を行使すること(本権に基づいて訴えること)はできます。
まとめ
今回は物権編 第2章 占有権 第2節 占有権の効力について解説しました。
占有権の効力として、権利の推定、果実収取権、損害賠償、即時取得、費用償還請求権、占有訴権があります。
第18回、民法物権「占有権の効力」については以上となります。
第19回では、民法物権「占有権の消滅」について解説します。